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    ◆小津と漱石(5)−個人主義と矛盾C 単語の拝借

    • 2018.02.11 Sunday
    • 18:55

     

    JUGEMテーマ:日本映画の監督

     

     

    C 単語の拝借 【参考文献】



       ここでは可能であれば漱石と他の作家の作品を検索して、その名前と数を示します(検索数が一件のものは名前のみ)。これは作者によって作品の分量が異るので公平ではなく、あくまで傾向をみるためにあります。

     また項目により抽出の条件も変り、例えば「8 よくって」は同じ用法ならすべて数えて、「19 黒猫」では同じ猫が作品の中で何回登場しても一つ、「22 洗濯物」は小津映画のように洗濯物が干されている場面だけに限り、同じ場面なら複数あっても一つとします。

     そのため「よくって」と「黒猫」など別項目の多少を比べても意味はなく、同じ項目についての作者間の比較を目的としています。対象の作家は漱石を含め以下の二十八名。

    夏目漱石/芥川龍之介/有島武郎/泉鏡花/内田魯庵/岡本かの子/小川未明/梶井基次郎/菊池寛/国木田独歩/小泉八雲/幸田露伴/斎藤茂吉/坂口安吾/島崎藤村/高村光太郎/太宰治/田山花袋/徳田秋声/永井荷風/中島敦/中原中也/林芙美子/樋口一葉/堀辰雄/正宗白鳥/室生犀星/森鴎外


    1 豆腐屋
    【二百十日 三】「肥えてるって、おれは、これで豆腐屋だもの」
    【文芸は男子一生の事業とするに足らざる乎】文学者の職業を男子一生の事業とするに足ると云うならば、大工も豆腐屋も下駄の歯入れ屋も男子一生の事業とするに足ると言っても 差支 さしつか えない。

    [⇔磴┐估ι紊稜,]ぼくは例えば豆腐屋なんだから次の作品といってもガラッと変ったものをといってもダメで、やはり油揚とかガンモドキとか豆腐に類したものでカツ丼をつくれたって無理だと思うよ

    *漱石はここに挙げたもの以外でも、「豆腐屋が商売なら文士も商売である」という趣旨のことを講演などで、たびたび述べています。「二百十日」には豆腐屋談義があり、この単語が五十五回も出て来ます。そしてこの小説のように、自分が豆腐屋であることを主張するものは他の作家にはないようです。
       小津にも自身を豆腐屋に例えたものが多数ありますが、彼は豆腐屋になるまでに、実に転職三回、最後は副業を二つ持っていたことが分ります。もともと小津自身は昭和九年に、「映画を製作するのは、せんべいを焼くのと同じで、いつも同じことをしているように思うのですが、結局、一本々々違います」と言っていたのですが( ̄撚茣篤賃婆世穎炭唾眠顱法∪鏝紊砲覆辰読章晴醗翅淳が、彼を「鹿ばかり描いている絵描きみたいなもの」と評して、これに対して小津は「鹿だけをちゃんと描くのだって、並大抵のことではない」と断言しています(てι紊弔りの境地)。
       昭和二十六年八月に「僕は納豆つくりだけをやっていればいい」と表現を変えて(映画への愛情に生きて)、さらにその一ヵ月後には「僕は豆腐屋だ」と改めました(同上 註5)。晩年は役者の演技について「俺は植木屋なんだから、こう鋏をチョンチョン入れていって最後にいい形の木を作っていく。だからその木の方が勝手に動いたり生えたりしてもらっちゃ困るんだ」(Щ各眄塗彙漫法
       そして昭和三十七年になると以前の絵描きの例をなぞって「何枚も同じバラを描きつづけている画家といっしょですよ」とも言っています(年寄りにも楽しい映画を)。これは動く鹿は描けないが薔薇なら描けるということか。実際、静物はよく描いていたようです。日記には昭和三十七年一月四日に自画像を描いたとも記されています。「小早川家の秋」には牛の絵ばかり集めている人物が登場しますが、小津映画をよく観るという意味なのか。

    *夏目漱石 70/芥川龍之介/有島武郎/泉鏡花 30/岡本かの子 4/小川未明 2/菊池寛 2/国木田独歩/幸田露伴/坂口安吾 8/島崎藤村 11/太宰治 9/徳田秋声 3/永井荷風 4/中原中也/林芙美子 3/森鴎外

    2 〜の見当
    【二百十日 四】圭さんは、いきなり、自分の帽子の上へ蝙蝠傘を おも しに置いて、颯と、薄の中に飛び込んだ。「おいこの見当か」
    【坑夫 67/100】坑夫が作業をしているに違ないが、どのくらい距離があるんだか、どの 見当 けんとう にあたるんだか、いっこう分らない。
    【こころ 先生と私 三十四】「どちらの見当です。もしいらっしゃるとすれば」
    【硝子戸の中 二十】この男の うち はどこにあったか知らないが、どの 見当 けんとう から歩いて来るにしても、 道普請 みちぶしん ができて、 家並 いえなみ そろ った今から見れば大事業に相違なかった。
    【私の個人主義 1/100】もっとも以前から学習院は多分この見当だろうぐらいに考えていたには 相違 そうい ありませんが、はっきりとは存じませんでした。
    【明暗 百七十七】「この 見当 けんとう だと心得てさえいたならば、ああ 不意打 ふいうち を食うんじゃなかったのに」

    [東京物語 38:55]「あんたんとこは」「私の処はこちらですわ……この見当になりますかしら」

    *これは他の作家にも多数あると予想したのですが以外になく、小津もここだけのようです。
    *夏目漱石 6/泉鏡花

    3 二人とも、これからだ
    【野分 二】「我々の生命はこれからだぜ」
    【虞美人草 十七】宗近君は巻煙草を くゆ らし始めた。吹く煙のなかから、「これからだ」と 独語 ひとりごと のように云う。「これからだ。僕もこれからだ」と甲野さんも独語のように答えた。

    [秋日和 1:59:31]「あなたもこれから、お母さんもこれからだ」

    *夏目漱石 2

    4 ひとりぼっち
    【野分 八】「 一人坊 ひとりぼ っちだ」と高柳君は口のなかで云った。
    【彼岸過迄 須永の話 九】僕の顔さえ見ると、きっと冷かし文句を並べて、どうしても悪口の云い合いを いど まなければやまない彼女が、一人ぼっちで妙に沈んでいる姿を見たとき、僕はふと可憐な心を起した。
    【私の個人主義 88/100】個人主義は人を目標として 向背 こうはい を決する前に、まず理非を明らめて、去就を定めるのだから、ある場合にはたった一人ぼっちになって、淋しい心持がするのです。

    [美人哀愁 131 佐野の家の書斎]岡本「俺は、独りぼっちだ。たった独りぼっちなんだ」
    [秋刀魚の味 1:06:41, 1:50:38]「結局人生は一人じゃ、一人ぼっちですわ」……/「やあ、一人ぼっちか」

    *漱石の「野分」には「一人坊っち」が二十もあります。
    *夏目漱石 22/有島武郎 4/泉鏡花 3/岡本かの子 4/小川未明 3/梶井基次郎/菊池寛 2/斎藤茂吉/坂口安吾 13/島崎藤村 9/太宰治 2/徳田秋声/中島敦 3/林芙美子 8/堀辰雄 4/室生犀星

    5 金と真鍮
    【京に着ける夕】制服の ボタン 真鍮 しんちゆう と知りつつも、 黄金 こがね いたる時代である。
    【それから 六の五】 渡金 めつき きん に通用させ様とする せつ ない工面より、真鍮を真鍮で とほ して、真鍮相当の侮蔑を我慢する方が らく である。

    [彼岸花 27:07]「結婚は金だと思ったら真鍮だったって話もあるじゃないか」

    *夏目漱石 2

    6 鱧
    【虞美人草 三】宗近君はだまって鼻をぴくつかせている。「また はも を食わせるな。毎日鱧ばかり食って腹の中が小骨だらけだ。京都と云う所は実に な所だ。もういい加減に帰ろうじゃないか」「帰ってもいい。鱧ぐらいなら帰らなくってもいい。しかし君の 嗅覚 きゆうかく は非常に鋭敏だね。鱧の臭がするかい」……/甲野さんは、だまって宗近君の まゆ の間を、長い事見ていた。御昼の ぜん の上には宗近君の予言通り はも が出た。

    [秋刀魚の味 22:41]A「あー旨い。これは何ですか」 B「鱧でしょう」 A「ハム」 B「いえ、はも」 A「ああ、鱧。なるほど、結構なもんですなあ。うーん鱧か。魚へんに豊か、鱧か」……/C「あいつ鱧食ったことないのかな、字だけ知ってやがって」

    *漱石、小津とも鱧が出るのはここだけですが、他の作家のものには鱧を食べる話はありません。更にここでは鱧を連発して、しかもオチまでつけています。「秋刀魚の味」の「いえ、はも」は音を示した言葉なので、これを除くと数も同じ五つとなります。
    *夏目漱石 5/泉鏡花 2/岡本かの子/坂口安吾

    7 もう沢山
    【虞美人草 十 十八】「まあ御聞きよ。甲野が汽車の中であの女は嫁に行くんだろうか、どうだろうかって、しきりに心配して……」「もうたくさん」……/「寒ければ、石炭を かせようか」と云った。/めらめらと燃えた火は、 ゆら ぐ紫の舌の立ち のぼ あと から、ぱっと一度に消えた。煖炉の中は真黒である。「もうたくさんです。もう消えました」
    【三四郎 一二】「おいしいでしょう。美禰子さんのお 見舞 みやげ よ」「もうたくさん」
    【それから 十の四】三千代は いつも の通り落ち付いた調子で、「 難有 ありがた う。もう沢山。今あれを飲んだの。あんまり奇麗だつたから」と答へて、リリー、オフ、ゼ、ヷレーの けてある はち かへり みた。
    【彼岸過迄 停留所 三十三】「小鳥だよ。食べないか」と男が云った。「 あたし もうたくさん」
    【明暗 四十五】「ありがとう。ここでたくさん」

    [戸田家の兄妹 52:08, 1:03:35]「お祖母さんの何か見てあげようか」「もう沢山よ」……/「お母さま、お一ついかが」「もう沢山」
    [彼岸花 1:31:18]「向うへ行ってから、不自由なものがあったら、そう云ってよ。追々に送ってあげるわ」「いいのよ、お母様。もう沢山よ」
    [秋日和 55:50]「何かもらうかい」「いいえ、もう沢山」

    8 お前のためだ
    【虞美人草 十五】「何にもしない。私のためには何にもならない事だ。ただ御前のために云ってやるのだ」
    【こころ 両親と私 三】「何もお前のためにするんじゃないとお父さんがおっしゃるんじゃないけれども、お前だって世間への義理ぐらいは知っているだろう」
    【明暗 十五】父は時々彼に向って、「誰のためでもない、みんな御前のためだ」と云った。

    [淑女は何を忘れたか 40:00]「あたしは、あんたのこと心配して言ってんのよ」
    [青春放課後 1:18:22]「あんたのためを思えばこそ嫌なこと言ってるのよ」

    *夏目漱石 3/菊池寛 2/坂口安吾 3/太宰治 8/徳田秋声/林芙美子/堀辰雄 3

    9 やっぱり
    【坑夫 94/100】「どこまで降りました」「八番坑まで降りました」「八番坑まで。そりゃ大変だ。随分ひどかったでしょう。それで……」と心持首を前の方へ出した。「それで――やっぱりいるつもりです」「やっぱり」

    [東京暮色 1:16:54]「どうなさった、どういう事になったの」「あのう、やっぱり」「あそう、その方が良いわよ。あんた身体弱そうだから」

    *「東京暮色」の方は意味が通じません。医者は「やっぱり、どうするの」ときき返えすはず(後に書く「◆隠された演出(7)−きわどい演出」参照)。

    10 立小便
    【僕の昔】この間も道であいつが小便をたれているところをうまくとっつかまえて連れて戻った。
    【坑夫 8/100 15/100】何気なく 後姿 うしろかげ を見送っていると、大きな黒松の 根方 ねがた のところへ行って、 立小便 たちしょうべん をし始めたから、急に顔を そむ けて、どてらの方を向いた。……/「御前さん、汽車へ乗る前にちょっと用を足したら善かろう」と云う。自分はそれには及ばんから、一応辞退して見たが、なかなか承知しそうもないから、そこで長蔵さんと相並んで、きたない話だが、小便を垂れた。
    【初秋の一日】Oは石段を のぼ る前に、門前の 稲田 いなだ ふち に立って小便をした。自分も用心のため、すぐ彼の傍へ行って ひん なら った。
    【こころ 先生と私 三十】すると先生がいきなり道の はじ へ寄って行った。そうして 綺麗 きれい に刈り込んだ 生垣 いけがき の下で、 すそ をまくって小便をした。
    【道草 四十二】ある朝彼は親に起こされて、眠い眼を こす りながら 縁側 えんがわ へ出た。彼は毎朝寐起に其所から小便をする癖を っていた。ところがその日は何時もより眠かったので、彼は用を足しながらつい途中で寐てしまった。そうしてその あと を知らなかった。

    [麦秋 1:12:01]
    [お早よう 1:17:05]
    [浮草 07:00]

    *小津映画ではすべて子供がやります。これらの映像も不思議ですが、漱石「こころ」の先生の方はもっと驚きです。門下生を前にした自身の体験なのか。「お早よう」では、すでに右手でおにぎりを掴んでいるので片手で処理するのは難しそうです。
    *夏目漱石 6/芥川龍之介 8/梶井基次郎 2/菊池寛/斎藤茂吉 4/坂口安吾 14/太宰治 3/永井荷風 3/中島敦/林芙美子 4/森鴎外

    11 何でもやります
    【坑夫 99/100】「はあありがたいです。何でもやります。帳附と云うと、どんな事をするんですか」
    【彼岸過迄 停留所 二十】「何でもやります」「何でもやりますったって、まさか鉄道の切符切もできないでしょう」「いえできます。遊んでるよりはましですから。将来の見込のあるものなら本当に何でもやります。第一遊んでいる苦痛を のが れるだけでも結構です」「そう云う御考ならまた私の方でもよく気をつけておきましょう。 すぐ という訳にも行きますまいが」

    [大学は出たけれど 10:05]「第一歩から踏み出す決心です。受付で結構です」「君も大分苦労をしたようだね。それだけ解れば受付でなくとも社員として働いてもらおう」
    *夏目漱石 2

    12 無と悟り
    【夢十夜 第二夜】 趙州 じょうしゅう 曰く と。
    小津の墓碑銘「無」

    *小津の方は戦時中の体験からのようですが、「夢十夜」も読んでいたと思われるので挙げておきます。「無」の意味は違っても、その話が影響していることも考えられます。

    13 夜の目も寝ずに
    【夢十夜 第九夜】 の目も寝ずに心配していた父は、とくの昔に 浪士 ろうし のために殺されていたのである。

    [自作を語る 蓮嶷魏の刃」……監督になれば夜の目も寝ずにコンティニュイティも建てなくちゃなるまいしね。/「その夜の妻」……夜の目も寝ずにコンティニュイティを考えたよ。

    *夏目漱石/幸田露伴

    14 鼠が噛る
    【永日小品 泥棒】「 ねずみ が何か かじ っているんだ」

    [お早よう 1:11:07]「ねえ、鼠、軽石噛るかしら」「さあ、鼠は軽石食わんだろう」

    *夏目漱石/芥川龍之介/有島武郎/泉鏡花 3/太宰治/堀辰雄

    15 何か彼か
    【それから 三の一】実業界に這入つて、 なに かに かしてゐるうちに、自然と金が たま つて、此十四五年来は 大分 だいぶん の財産家になつた。

    [秋日和 1:59:05]「いつも何か彼か、あなたにお土産持ってらしって」

    *夏目漱石/幸田露伴/徳田秋聲

    16 秋日和
    【門 一】 秋日和 あきびより と名のつくほどの上天気なので……
    【硝子戸の中 九】空の澄み切った 秋日和 あきびより などには、よく二人連れ立って、足の向く方へ勝手な話をしながら歩いて行った。

    [秋日和](題名)

    *夏目漱石 2/芥川龍之介/泉鏡花 5/菊池寛/林芙美子/堀辰雄 2/森鴎外 3

    17 よくって
    【門 四 九】「小六さんが怒ってよ。よくって」と御米はわざと念を押しておいて微笑した……「ええ、今日は西洋の叔母さんごっこよ。東作さんは御父さまだからパパで、雪子さんは御母さまだからママって云うのよ。よくって」と説明した。
    【明暗 七十 七十三 九十三 百八】「じゃあたしが(おみくじを)引くから、あなた自分でおきめなさい、ね。何でも今あなたのお腹の中で、一番知りたいと思ってる事があるでしょう。それにするのよ、あなたの方で、自分勝手に。よくって」……「百合子さん、あたしまたお邪魔に上りましたよ。よくって」……「どうせあたしの話だから ろく な事じゃないのよ。よくって」……「あなたいただいてもよくって」

    [戸田家の兄妹 1:14:16]「そんな馬鹿な考え止めて頂だい。よくって、分った」

    *夏目漱石 6/芥川龍之介 4/有島武郎 3/岡本かの子 2/永井荷風 3/堀辰雄 2/森鴎外

    18 艶書
    【手紙 六】実をいうと手紙はある女から男にあてた 艶書 えんしよ なのである。
    【硝子戸の中 三十六】兄は或上級生に 艶書 ふみ をつけられたと云って、私に話した事がある

    [停学処分Ь津新一談]中学五年のときに退学事件……こりゃ稚児さんの事かなとおもってね……結果、放校ってことにはならなかった。
    [秋刀魚の味 20:32]「そいでお前停学くったよ」「くった、くった」「あん時は何だったんだい」「女学生にラブ・レター出したんだ」

    *夏目漱石 2/芥川龍之介 5/泉鏡花 3/小泉八雲/幸田露伴/島崎藤村

    19 黒猫
    【彼岸過迄 風呂の後 四】それのみか、彼の足の下には、スマタラ産の黒猫
    【硝子戸の中 二十八】ある人が私の うち の猫を見て、「これは何代目の猫ですか」と いた時、私は何気なく「二代目です」と答えたが、あとで考えると、二代目はもう通り越して、その じつ 三代目になっていた。/初代は宿なしであったにかかわらず、ある意味からして、だいぶ有名になったが、それに引きかえて、……その あと へ来たのがすなわち真黒な今の猫である

    [宗方姉妹 1:03:55](夫の亮助は色々な猫を飼っているが、最後に出てくるのが唯一名前で呼ばれる黒猫のタマ)

    *「宗方姉妹」大佛の原作では猫を飼っていません。
    「吾輩は猫である」の影響により、漱石は猫好きとの印象が強いのですが、それは誤解であり、息子の証言によると彼は犬好きであったとのこと。実際「猫」の主人は飼い猫を可愛がっているわけではなく、これは「宗方姉妹」における亮助よりも、呑み屋の女中「あたい(猫は)嫌い。勝手な時ばっかりニャアニャア人の顔色見てさ。犬の方がよっぽど良いよ、人情があって」(33:19)に近いでしょう。
    *夏目漱石 2/芥川龍之介 3/泉鏡花 7/梶井基次郎/島崎藤村 4/室生犀星

    20 方位九星
    【彼岸過迄 停留所 十五】彼の父は 方位九星 ほういきゅうせい に詳しい神経家であった。

    [長屋紳士録](田代の職業は大道の占い師)

    21 母を恋はずや
    【彼岸過迄 松本の話 八】「僕は離れたらまたきっと母が恋しくなるだろうと思うんですが、どうでしょう」

    [母を恋はずや](題名)

    *夏目漱石/芥川龍之介/有島武郎/菊池寛/国木田独歩 3/坂口安吾 2/森鴎外 3

    22 洗濯物
    【行人 友達 十九】島田に った若い女が、しきりに洗濯ものを 竿 さお の先に通していた。
    【明暗 四十】日に照らされてきらきらする白い洗濯物の色を、秋らしい気分で眺めていた
    【明暗 百十四】津田は洗濯屋の 干物 ほしもの を眺めながら……洗濯屋の前にある一本の柳の枝が白い干物といっしょになって軽く揺れていた。

    [お早よう](その他多数)

    *ここは洗濯物が干されているものに限るのですが、「お早よう」にも洗濯物を干す場面があるので(1:10:43)「行人」も入れました。
    *夏目漱石 4/芥川龍之介 3/泉鏡花 2/梶井基次郎 3/坂口安吾 5/島崎藤村 4/太宰治 2/田山花袋 2/徳田秋声 2/永井荷風 3/中原中也/林芙美子 3/堀辰雄 3

    23 お前の兄として
    【行人 兄 四十二】「二郎、おれはお前の兄として、ただ解りませんという冷淡な 挨拶 あいさつ を受けようとは思わなかった」

    [東京の女 14:40]「僕はお前の兄として、注意しときたいと思うんだ」

    24 葉鶏頭
    【行人 帰ってから 二十】そのうち秋がだんだん深くなった。 葉鶏頭 はげいとう の濃い色が庭を のぞ くたびに自分の眼に映った。

    [東京物語 1:50:08, 2:02:42](平山家の裏庭に葉鶏頭)
    [秋日和 34:20](桑田服飾学院前に葉鶏頭が並んでいる)
    [浮草 18:01](本間お芳方の裏庭に葉鶏頭)
    [小早川家の秋 35:18](裏庭に葉鶏頭)
    [‐津安二郎戦場談](戦病死した山中貞雄を偲んで)こうして話しながら庭を見ると、葉鶏頭が今年も咲いている。/もっと赤々と咲いていた頃だった。出征する前に、山中が訪ねて来て、雑談していたが、ふと目を庭にやると、何とはなく云った。「ええな、葉鶏頭は」/私も、じっと、葉鶏頭を見つめた。二人は、暫く葉鶏頭を眺めて黙っていたが、やがて、他の話に移って行ったことを思い出す。/帰って来て、何気なく庭の葉鶏頭を見ると山中の云った「ええな、葉鶏頭は」のやさしい言葉つきと、人なつっこい性格が妙に思い出される。

    *漱石以外は葉鶏頭の別名である雁来紅で検索できます。
    *夏目漱石/永井荷風 2/林芙美子 2/室生犀星 2

    25 輪廻
    【こころ 両親と私 八】油蝉の声がつくつく法師の声に変るごとくに、私を取り巻く人の運命が、大きな 輪廻 りんね のうちに、そろそろ動いているように思われた。

    [自作を語る−麦秋 呂海譴魯好肇Ε螢い修里發里茲蝓△發辰反爾あ穃慍≫というか≪無常≫というか、そういうものを描きたいと思った。

    *夏目漱石/芥川龍之介/有島武郎/小川未明 3/幸田露伴/太宰治/樋口一葉

    26 利かぬ気の
    【道草 五】それにしてもこの利かぬ気の姉が、夫に だま されて

    [淑女は何を忘れたか 31:48](端唄)「止めてはみたが利かぬ気の」
    [小早川家の秋 35:42, 46:26](同上)

    *夏目漱石/泉鏡花/岡本かの子/菊池寛

    27 しぶとい奴
    【道草 五十四】 平生 へいぜい からあまり口数を利かない彼女は ますます 沈黙を守って、それが夫の気を 焦立 いらだ たせるのを目の前に見ながら澄ましていた。「つまりしぶといのだ」

    [自作を語る 和臑離轡鵐ポールで、僕は生涯のうち最も多量に外国映画を観たんだ。それで、あいつも少しは変るだろうと思った人もいるらしいんだな。処が『長屋紳士録』、少しも昔と変らないというわけだ。何てしぶとい奴だ、ってね。

    28 おでん屋
    【明暗 三十三】「どこでも構わない。おでん屋でもいいじゃないか」

    [東京物語 1:07:27](おでん屋「お加代」おでん、焼き鳥の看板)
    [早春 26:04, 1:15:27](妻の実家のおでん屋で)「お前帰りにおでん持ってかないかい、良く煮えてるよ」
    [東京暮色 1:41:30, 2:02:20](おでん屋「お多福」)
    [お早よう 36:18](小料理おでん「うきよ」で)「おい、俺におでんくれ、スジ」

    *どうも、おでん屋には廃頽の傾向があるようで、「明暗」のこの台詞も廃頽的な悪友小林のものです。小津映画の方も良い印象は残りません。
    *夏目漱石/泉鏡花 14/坂口安吾 14/太宰治 37/徳田秋声 9/永井荷風 11/中島敦 3/林芙美子 7

    29 いいお天気
    【明暗 四十四】「好いお天気だ事」

    [戸田家の兄妹 26:17, 1:06:05]「ああ、明日もいい天気だ」「明日も良いお天気よ」
    [父ありき 19:35]「ああ、今日はいい日曜だ」
    [風の中の牝鷄 09:34, 1:06:43]「いいお天気ねえ」……「お天気がいいと、あたし何時もここへお弁当食べに来るのよ」
    [晩春 1:10:17]「ああ、明日もいい天気だ」
    [宗方姉妹 09:02, 1:21:17]「いいお天気」……「いいお天気」
    [麦秋 22:32, 22:47, 53:56, 58:23]「ああ、いい天気だ」……「あんまりお天気が良いもんですから」……「好いわねえ、綺麗な空」……「ああ、今日は良い日曜だった」
    [東京物語 1:52:39]「ああ、綺麗な夜明けだった。ああ、今日も暑うなるぞ」
    [早春 11:44, 25:28, 55:37, 1:46:33]「天気だといいなあ」「大丈夫よ、ここんとこ日曜ずうっとお天気だもん」……「今日はお天気よかったから、お前も連れてってもらやあ良かったんだよ」……「いいお天気」「綺麗な空」……「今日もまた暑くなりそうですわね」
    [彼岸花 25:48, 27:49, 37:28]「違いまんなあ、京都とは空の色まで」……「いやあ、ええお天気」……「いいお天気で良かったわ。何年ぶりかしら、こんな事(家族での旅行)」「うーん、いいお天気だね」
    [お早よう 21:05, 34:27, 1:13:50, 1:31:28]「ああ、いいお天気ねえ」……「あ、いいお天気ね」「ほんとに、いいお天気」……「いやあ、いいお天気ですなあ」「そうですなあ、ここんとこずうっと続きますなあ」……「ああ、いいお天気ですねえ」「ほんと、いいお天気」
    [浮草 03:42, 1:05:05]「やあ、今日も暑うなるでえ」……「ああ、悲しいくらい青い空だなあ」
    [秋日和 1:07:28]「いやあ、ちょっとね。いい天気だねえ、今日も」
    [小早川家の秋 14:56, 55:17, 55:50]「今日も暑うなるなあ」……「ああ、いいお天気」……「今日はお天気もよかったし、本当に」
    [青春放課後 27:13]「ああ、いい天気だなあ」

    *小津映画には天候についての台詞が多く、実際の天気はほとんど快晴です。初出の「戸田家の兄妹」では撮影時に追加されたようなので脚本「32 廊下」の該当箇所にはありません。小津はここでの佐分利信の演技について「クサクなるんじゃないかと心配したが、まあやらしてみようというわけでやらしてみると、それが巧く感じが出て成功した」(∨佑呂舛辰箸發海錣ないよ)と言っているので、これによって以後は脚本から意識して入れていったのでしょう。

     ところが「68 二階」の節子には「あしたもいい天気よ……あしたはお洗濯をして、……」と本編通りの台詞があります。ここは直接空を見ていないので、話の流れとして自然に入れていたのでしょう。

    「お早よう」では「いいお天気」を連発しますが、「そうですなあ、ここんとこずうっと続きますなあ」などと、わざとらしさを逆手にとって強調しています。

     しかし、これほど頻繁に天気が良いという台詞が出て来てもヒロインには余りありません。それを言うと「私のように綺麗」となってしまうからでしょうか。例えば原節子は「小早川家の秋」の未亡人役で「ああ、いいお天気」の台詞があっても、ヒロインを演じた「晩春」「麦秋」「東京物語」には出て来ません。例外的なものは以下の通り。

     

    「戸田家の兄妹」「明日も良いお天気よ」(高峰三枝子)先の兄の台詞に対応する、母娘の物語

    「風の中の牝鷄」「いいお天気ねえ」(田中絹代)ヒロインといっても若くない

    「宗方姉妹」「いいお天気」(高峰秀子)相手は恋人というより男友だち。「いいお天気」(田中絹代)「風の中の牝鷄」と同じ

    「早春」「ここんとこ日曜ずうっとお天気だもん」(岸恵子)主役でもなく現在の天候でもない。誘惑者という役柄なので晴天を口にしてはならないのだと思われます。これは「風の中の牝鷄」「お天気がいいと、あたし何時も……」(文谷千代子)も同様でしょう

    「彼岸花」「違いまんなあ、京都とは空の色まで……いやあ、ええお天気」(山本富士子)自分のように綺麗と言っているがヒロインではない。外部の役者なので贔屓して役柄や着物姿に合わせたのでしょう

    「お早よう」「ほんと、いいお天気」(久我美子)唯一若いヒロインの台詞ですが、この作品は子供たちが主役であり、意中の人を前にして大事なことは言えない、とコントのような乗り

     

    これらのことからヒロインが「いいお天気」と言うのは恋愛物以外の作品に限るといえそうです。

     

     雨天があるのは「大学は出たけれど」(09:28)、「美人哀愁」(「121 葬儀自動車屋の前」から「124 濡れたペーブメントに散る花びら」まで)、「浮草物語」(23:20)とそのリメイク「浮草」(47:00)、「東京の宿」(32:32)、「淑女は何を忘れたか」(40:54)、「宗方姉妹」(1:32:33)。雪が降るのは「若き日」(1:31:48)と「美人哀愁」(冒頭から「37 踏切付近」までと、結末の「138 雪の道」以降)、「母を恋はずや」(09:28)、「東京暮色」(25:41)。

     小津は予定していたことを天候に左右されてしまうロケを嫌いました。その現れとして「若き日」は吹雪の中で、学生たちが楽しそうにスキーをやります。「母を恋はずや」では雪の降る道を二人の幼い兄弟が歩いて行きますが、撮影前は雪を想定していなかったので天候についての台詞はありません。「東京物語」の脚本は、恐らく主要な場面のためもあり熱海の海岸を始めに書いたのですが、撮影は天候の具合により最後になってしまったとのこと。これは遠い尾道を優先したのも原因だったのでしょう。

    30 囲碁と将棋
    *漱石の小説では囲碁の方が将棋より出現回数が多いのに対して、小津のサイレントでは将棋が多のですが、トーキーになるとリメイクの「浮草」が「浮草物語」と同じ将棋であることを除くと、他はすべて囲碁になります。私見ですが、物語にある将棋は若者向け、囲碁は壮年以降向きと言えるでしょう(壮年者は囲碁をいつ覚えるのか、という疑問は残りますが)。

    「夏目漱石 12-5=7」は「12(囲碁)-5(将棋)=7(囲碁の方が7つ多い)」の意。

    *夏目漱石 12-5=7/芥川龍之介 4-1=3/有島武郎 2-2=0/泉鏡花 6-1=5/岡本かの子 3-1=2/小川未明 0-2=-2/梶井基次郎 1-0=1/菊地寛 5-6=-1/国木田独歩 4-1=3/幸田露伴 9-0=9/斎藤茂吉 1-2=-1/坂口安吾 61-39=22/島崎藤村 5-5=0/太宰治 8-7=1/田山花袋 2-1=1/徳田秋声 3-3=0/永井荷風 4-0=4/中島敦 0-2=-2/林芙美子 1-0=1/堀辰雄 2-0=2/森鴎外 6-0=6

     

    【参考文献】

     

     (本文ここまで)




     

     

     

     

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    • 2019.07.19 Friday
    • 18:55
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