◆小津と漱石(6)−個人主義と矛盾 まとめ

  • 2018.02.12 Monday
  • 09:07

 

JUGEMテーマ:日本映画の監督

 

 

まとめ 【参考文献】



「B 台詞の拝借」「C 単語の拝借」では、後者の単語が圧倒的に多いだろうと予想したのですが、結果はB八十一件に対してC三十件、逆に台詞のBの方が二・七倍になりました。単語に類似性があるとするのは判断が難しく、例えば同じ魚の名でも「鱧」は入れても、「秋刀魚」や「さんま」は漱石に十件以上あっても採らず、「秋刀魚の味」であれば入れたのですが、これは有りませんでした。
「C 単語の拝借」の検索できた項目で、漱石が最多のものは同数(*付き)を含めて、全二十三件のうち次に挙げる十一件あり、合計で第一位となりました。第二位の泉鏡花が四件なので、そのほぼ三倍になります。作品数も多い漱石を元に抽出したので検索数も多くなるのは当然ですが、それでも傾向として、小津との類似性が他の作家にくらべて高いといえるのではないでしょうか。漱石最多の項目には、小津映画で印象に残る台詞(〜の見当、ひとりぼっち、何か彼か、よくって、利かぬ気の)が目立ちます。

 C 単語の拝借
1 豆腐屋
2 〜の見当
3 二人とも、これからだ
4 ひとりぼっち
5 金と真鍮
6 鱧
11 何でもやります
13 夜の目も寝ずに*
15 何か彼か*
17 よくって
26 利かぬ気の*


小津映画には、その大半は面白くても、ストーリーとは関係のない唐突な感じのする場面がよくあります。中には漱石由来と思われるものが二十三件もあるので、それらを示します。

 B 台詞の拝借
4 客人に呑気な答え
21 大学でもう、やってる奴がいる
32 見合い写真に難癖
34 要人の盛衰
37 あの字はどう書いた
40 深夜の病院で変な音
42 世の中には面白い事がたくさんある
44 着物を身につけたまま綻びを縫わせる
46 鎌倉の家の中で方角を問う
49 知人を二階の部屋に泊める
52 寸志拒否
54 仲直りの握手
61 子供の居場所を変える
67 尻端折りをして拭き掃除
69 追随
70 外来者に顕微鏡を覗かせる
76 道ならぬ恋の手ほどき
77 飲食店できまりの悪い思い
78 皮肉な呼びかけ

 C 単語の拝借
6 鱧
9 やっぱり
10 立小便
19 黒猫

 


小津は昭和二十八年「東京物語」製作の年に漱石の「明暗」を読んでいます(安莪貍蓮峅拮日乗をよみつゞくこと例の如し」、㉙昭和二十八年一月二十二日〜)。そして以後の作品に「明暗」から拝借したとみられるものが多く、その数は十七件。中には「東京物語」の前に同じネタを使う作品もありますが、「明暗」により頻度が高まったとも考えられます。
また前後を比べると十五、十七と数の上ではあまり差はないのですが、「A 場面の拝借」は以後の作品だけに限り二件あり、「B 台詞の拝借」における「76 道ならぬ恋の手ほどき」「77 飲食店できまりの悪い思い」「80 置いてきぼり」等の類似性も高く、「明暗」の影響は明らかでしょう。特に「C28 おでん屋」では、小津映画に多い呑み屋の場面の中でも、おでん屋が初出の「東京物語」から「早春」「東京暮色」と三作連続なのは象徴的です。
さらに小津は「明暗」の小林の性格に注目しており「明暗に出てくる小林といふ人物 どこか大久保忠素(小津が助手に付いていた監督)に似てゐる これが仲々よく書けている」(㉙昭和二十八年一月二十四日)、彼のネタが四件あります。
それら「明暗」からと思われる十七件を以下に示します(*付きは「東京物語」以後だけにあるもの、+付きは小林のネタ)。

 A 場面の拝借
5 燐寸二本で相手の煙草に火を点ける*
6 待ち合わせ場所に新参者*+

 B 台詞の拝借
3 芸術は美を表現する
51 結婚後の和合
71 子供には分らない、聞かせたくない大人の会話
72 目的のバーはここいらにない*+
75 反抗期
76 道ならぬ恋の手ほどき*
77 飲食店できまりの悪い思い*+
80 置いてきぼり*
81 林檎の皮むき*

 C 単語の拝借
2 〜の見当*
7 もう沢山
8 お前のためだ
22 洗濯物
28 おでん屋*+
29 いいお天気


漱石の著作には比喩がよくありますが、この比喩の性質もまた小津と似ています。たとえば漱石「入社の辞」にある「新聞屋が商売ならば、大学屋も商売である」と、小津の「僕は豆腐屋だから豆腐しか作らない」。開き直りとでもいうような、これが外に向かう時は少し突き放す感じです。

「人間の生地はこれだから、これで差支ないなどと主張するのは、練羊羹の生地は小豆だから、羊羹の代りに生小豆を噛んでれば差支ないと結論するのと同じ事だ」(坑夫 47/100)

「映画には文学的要素と絵画的要素と音楽的要素がある。だから映画は芸術であるというような、変哲もない本質論なのである。……このコンニャクは、醤油もしみているし、砂糖もきいているし、唐がらしもちょいときいているから、これはうまいというような話だ」( ̄撚茲豊猜庫´瓩呂覆ぁ

この二つはふざけたところも似ていますが、ここに挙げたものはどれも諷刺的で飾らず地のまま、着流しというような感じです。

 


最後にもう一つ、漱石(慶応3/01/05, 1867/02/09)と小津(1903/12/12)は三廻り違いの同じ卯年の生れ。

 

【参考文献】

 

 (本文ここまで)




 

 

 

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