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    ◆変な小津映画(2)−変な「早春」

    • 2018.03.18 Sunday
    • 12:00

     

    JUGEMテーマ:日本映画の監督

     

     

    変な「早春」 【参考文献】

     

     

     

    変な寄りや引き

     

     實重彦によると、ドイツの映画研究者ヘルムート・ファルバーが小津の「早春」について、「同じ人物に対する寄りのショットと引きのショットが、何ら他のショットを挿入することなく繋がれている」ので変だと指摘しているとのこと(敢包と野放し)。蓮實はそれが映される人物は一人であり、動きを伴わない場合に限るといいます。

     

    さらに同じ軸に沿った寄りにつながっていないとも言うのですが、これは単にカメラが寄るだけではなく、左右に移動するか向きが変るという意味にとれます。しかし、それでは前方向から横方向へなどの、普通のショットの切り換えと同じことになります。直接前後につながれるから変なのだと思われますが。実際、後に示す、蓮實が指摘しているところの三つあるショットのうち、二つは真っすぐ寄っていますが、杉山正二(池部良)の寄りでカメラが左を向き、彼の正面近くを映すものは比較的まともに見えます。

     

     こで一人だけの寄りや引きについて、人物の動きやカメラの前後以外の動きの大きいものを除いて、明らかにその人物を捕えながら行っているとみられるものを挙げてみます。*付きはカメラの前後以外の動きが殆どないもので、これが変な寄りや引きに当ります。「早春」はどちらの型でも蓮實の挙げた二件になります。しかし前後の白黒作品を見ていくと、前が「麦秋」一件(*一件)、「お茶漬の味」四件(*二件)、「東京物語」なし(*なし)、後の「東京暮色」は四件(*一件)となりました。どうやら、変な寄りや引きは「早春」だけではないようです。

     

     

    1 同じ人物に対する寄りと引きのショットが動きを伴わず直接つながれている

     

    • 「早春」2(*2)件

       

      1. 杉山宅で昌子の寄り(1:38:26)*
      2. 杉山宅で杉山の寄りと、続く昌子の寄りが対になっており(1:44:41)、
        杉山の方はカメラ左向き*
    • 「麦秋」1(*1)件
      1. 自宅で間宮周吉(菅井一郎)の引き(03:12)*

         

    • 「お茶漬の味」4(*2)件
      1. 職場で雨宮アヤ(淡島千景)の寄り、続いてアヤの引き(04:09, 04:17)*
      2. 職場でアヤの寄り(1:11:58)、姿勢が変るので時間が経過したように思える*
      3. 自宅で佐竹の寄り(1:27:40)、右に移動
      4. 自宅で妙子の寄り(1:35:32)、右に移動、小道具が移動、右腕の置き方が変る

         

    • 「東京物語」0(*0)件

       

    • 「東京暮色」4(*1)件
      1. 杉山周吉(笠智衆)の勤め先で竹内重子(杉村春子)の寄り(13:22)、左に移動
      2. うなぎ屋で重子の寄り(15:41)、右に移動
      3. 浜離宮の堤で明子の寄り(49:31)*
      4. 「珍々軒」で木村の寄り(1:53:31)、左に移動

     

     

     な寄りや引きに当るもの(*付き)について見ていくと、「麦秋」にある一件は冒頭での周吉の人物紹介の場面であり、引いた時に右に寄って、これから部屋に入ってくる子供のための空間を作ります。しかし暫くその子が現れないので少し戸惑いを感じますが、変ではありません。

     

    「お茶漬の味」は職場での雨宮アヤのものが二件あります。初めのものは横向きでこれも人物紹介になっています。二つ目は斜め前向きで、佐竹妙子と喧嘩別れをした直後の描写ですが、これらも変ではないようです。「東京暮色」のうずくまる明子は、カメラが真っすぐ前に寄っているので「早春」昌子の二つと同じ型ですが、その効果は良く出ていると思われます。

     

     れらに比べて「早春」の方は確かに変です。考えられる点としては人物の顔が見えることが挙げられるでしょうか。しかし前の昌子は横から撮られているので後のものほど強くは感じられません。加えて反復運動ですが団扇をあおいでもいます。その他のものでは「淑女は何を忘れたか」姪の節子(桑野通子)が「うち、明日の今時分もう大阪や」と言う処での寄りも直接つながれています(1:07:00)。それにも関わらずその効果を上げているのは、やはり後ろ向きであったり、少し体が左に動いたりしているからでしょう。

     

    さらに挙げてみると、「晩春」自宅で紀子(原節子)が父の再婚話で取り乱して、二階へ駆け上った後の寄り―顔が見えない(1:09:04)、「宗方姉妹」寺の庫裡で宗方忠親の寄り―横向き(06:23)、三村(山村聰)宅で化粧しながらの節子(田中絹代)の引き―横向き(1:03:13)、「秋日和」勤め先屋上でのアヤ子(司葉子)の寄り―横向きでカメラ左向き(1:32:40)、等もあります。これらをみると、一件だけある引きは直接つながれていても、人物が背景と一体になるので変ではないようです。寄りの方は、真っすぐに寄って顔が見えるものとして「宗方姉妹」の忠親がありますが、それは横向きで五倍にもなり二つの敷居を越えて行われるので、直接つながれている感じが弱くなります。

     

     上から変な寄りと引きの条件は、

     

          
    1. 一人だけの寄りに限る
    2. 人物が中心にある
    3. 人物が正面を向く
    4. カメラの向きが変らない
    5. カメラが大きく移動しない
    6. カメラが寄りすぎない

     

    となります。結果的にこれらを満たすのは「早春」後の昌子(1:44:52)だけのようです。更にここでは正二、昌子と続けざまに行われるので、後の方は寄りに慣れて真っすぐであることが目立ちやすいのだと思われます。また静まった暗い屋内での緊張した場面という、芝居上の効果もその要因となっているでしょうか。なお「東京物語」には二つの型とも該当がないので、「変な『麦秋』『お茶漬の味』」で見た、いきなり屋内を映す場面が少なかったのと同じように、小津調が強く現れていると言えるでしょう。

     

     

    カメラ固定の会話

     

     その他に「早春」を観て変だと思えるものに、ロング・ショットで主にカメラ固定のまま続く会話が九件あります。例えば土手の上で千代(岸恵子)が杉山(池部良)にうどんの会の報告をする場面は、会話を始めてから場面の最後に彼らが立ち去るまでずっとカメラが動かないので、まるで演劇の一場のように見えます。特にここでは寄りのショットが直接つながれていますが、それは二人が画面右方向に歩きながらであり、寄った時に人物が後ろにずれてしまうので映像が汚く、間のショットが抜けているのではないかとさえ思えます。小津は動きのあるショットのつなぎでは、間が飛ぶことを嫌い重なるようにしたのですが、ここはやり過ぎでしょう。

     

     他にも、二人が入場してから退場するまでカメラ固定の会話がつづく、同じような場面が二つあります。それは青木(高橋貞二)の職場ガソリン・スタンドでの彼と野村(田中春男―役者が多いので、配役に彼の名前が無い)、瀬田川での杉山と小野寺(笠智衆)。特にガソリン・スタンドの方は、寄りと引きの間にある正面からのショットが演劇そのままという感じがします。瀬田川の杉山と小野寺は途中で二度、会話を中断して学生のボートに視線を移しますが、ここも会話している時はすべて正面からのロング・ショットでカメラ固定となっています。

     

     ハイキングの場面での、会話しながら三分間ロングのままというのも他に例がないでしょう。「秋日和」のハイキングは二十秒の間、うきうきした無言の七人が、少し乱れてはいますが横一列に並ぶ純小津調(47:55)。厚田雄春談には「『早春』では、江の島海岸でのフル・ショットをこころみた。が、それもこれ一作だけのこころみで以後の作品にはまったく見られなかった」とあります(小津ロー・ポジションの秘密)。

     

     

    2 ロング・ショットで主にカメラ固定のまま続く会話

     

    • 「早春」9件
      1. 通勤時のホームでの電車待ち(07:28)
      2. 昼休みの土手で集団の右と左の二ヵ所を交互に撮るが、個々の台詞では動かない(10:51)
      3. 「ブルー・マウンテン」店内。カメラの視点はたびたび変るが二分三十秒以上アップがない(15:11)
      4. 江の島のハイキング(22:12)
      5. 田辺(須賀不二男―彼も配役に名前が無い)のアパートで麻雀。後半はアップが無い(37:24)
      6. 青木の職場で青木と野村(39:12)
      7. 土手の上で杉山と千代(1:38:48)
      8. 瀬田川で杉山と小野寺(2:16:17)
      9. 三石の職場で杉山と同僚。顔を真横から撮っている(2:18:48)

     

     

     さらに「早春」で小津らしくないところを挙げてみます。小津のオリジナル、視線を越えて切り返すショットが八件というのは他の作品に比べてずっと少ないですが、これはカメラ固定の会話が多いことから必然といえます。その他、駅に向かうサラリーマンの群がみんなばらばらに歩き、誰も見ていない俯瞰まであり(06:26)、昼休みの終りに土手から移動するサラリーマンの集団もばらばら(11:50)。人々のばらばらな動きは一般の映画では普通の光景ですが、小津映画ではなかなか見られないので目立ちます。

     

     

    3 視線を越えて切り返す会話―小津らしいこれらの場面は少ない

     

    • 「早春」8件
      1. ミルク・スタンドで野村とチャア子(山本和子―やはり配役に名前が無い)が右向き(54:03)
      2. 杉山宅で戦友の坂本と杉山が左向き(1:12:11)
      3. おでん屋「喜多川」でしげと客のツーさん(菅原通済)が左向き(1:15:27)
      4. 職場で杉山と荒川(中村伸郎)の立ち話で、杉山の左向きと荒川の顔が左で体は右向き(1:20:50)
      5. 同じく椅子に掛けながら、杉山の顔は右で体は左、荒川の右向き(1:21:28)
      6. 自宅で杉山と千代が左向き(2:01:48)
      7. 田辺のアパートで杉山と千代が左向き、台詞は千代だけ(2:15:01)
      8. 三石の下宿で杉山と昌子が左向き(2:21:11)

     

     

     以上のように、「早春」ではロー・ポジションこそ守られていますが、その他の大概の小津効果は極力抑えられており、普通に撮っているというより更に先へ行って反小津調です。彼は、「『早春』では変った試みをしましたがね。お客が見てコロッと変って見えるのはホンモノじゃないね」(会心の酒に酔う好々爺)、「いままで僕の映画作法は韻文的だったが、こんどのはあえて散文的に作ってみたんです。ぶっつけで俳優さんたちにもあまり芝居させないように、自然の演技をやらせてみたんです」(映画「早春」をめぐって)と言い、また妻昌子役の淡島千景は、「『早春』というのは、小津さんとしては珍しいことをおっしゃった作品なんです。というのは、……『早春』では、『みんな自由に動いていいよ』っておっしゃった」と証言しています(淡島千景談)。

     

     先ほど例を挙げましたが、役者に自由に芝居をさせたことの影響なのか、「早春」にはショットのつなぎで動きが戻ってしまうものや、逆に飛んでいるようなものが五つもあります。特にうどんの会では、体の動きではありませんが、野村の台詞「あの二人、どっちが先にモーションかけよったんや」の前にある寄りで、彼の一度上げた眼が戻るので気持ち悪い。

     

     

    4 ショットのつなぎが醜いもの

     

    • 「早春」5件
      1. 田辺のアパートの麻雀の引きで、引っ込めたはずの青木の腕が伸びる(38:10)
      2. 杉山宅で彼が流し台に向った時の寄りで、体の前に両腕が伸びて体重が掛かる(1:03:36)
      3. 杉山宅で戦友坂本が座り込んだ後、体を起した時の寄りで姿勢が戻る(1:05:58)
      4. 田辺のアパートうどんの会での寄りで、野村の上げた眼が戻る(1:29:15)
      5. 土手の上を杉山と千代が、歩きながらの寄りで後ろに戻る(1:38:48)

     

    【参考文献】

     

     (本文ここまで)




     

     

     

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