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    ◆小津と漱石(4)−個人主義と矛盾B 台詞の拝借(51〜81)

    • 2018.02.07 Wednesday
    • 20:07

     

    JUGEMテーマ:日本映画の監督

     

     

    B 台詞の拝借(51〜81) 【参考文献】



    51 結婚後の和合
    【行人 帰ってから 六】「結婚の話で顔を赤くするうちが女の花だよ。行って見るとね、結婚は顔を赤くするほど嬉しいものでもなければ、恥ずかしいものでもないよ」
    【明暗 三十】「全く見ず知らずのものが、いっしょになったところで、きっと 不縁 ふえん になるとも限らないしね、またいくらこの人ならばと思い込んでできた夫婦でも、 末始終 すえしじゅう 和合するとは限らないんだから」

    [晩春 1:14:28]「見合いでいいのよ、あんたなんか。あたしは(好きと)言えたけどさ。その代り見てごらんなさい、ちっとも良かなかったじゃないの……恋愛結婚だって当てになりゃしないわよ」
    [彼岸花 27:07]「結婚は金だと思ったら真鍮だったって話もあるじゃないか」
    [青春放課後 56:46]「あたしなんか、みんなから恋愛結婚だなんて言われてるけど、恋愛なんて結婚するまでよ」

    *漱石と小津のどちらにも恋愛結婚の否定と、結婚そのものを否定するものがあります。

    52 寸志を拒否
    【行人 帰ってから 十六】「たといどんな関係があったにせよ、他人さまから金子を頂いては、 らく 今日 こんにち を過すようにしておいてくれた夫の 位牌 いはい に対してすみませんから御返し致します」
    【こころ 先生と遺書 二十一】私はその場で物質的の補助をすぐ申し出しました。するとKは一も二もなくそれを ね付けました。
    【道草 六十三】「失礼ですが、車へでも乗って御帰り下さい」/彼女はそういう意味で訪問したのではないといって一応辞退した上、健三からの贈りものを受け納めた。
    【道草 八十八】「失礼ですがこれで くるま へでも乗って行って下さい」「そんな御心配を掛けては済みません。そういうつもりで あが ったのでは御座いませんから」/彼女は辞退の言葉と共に紙幣を受け納めて懐へ入れた。

    [東京物語 1:22:38]「あの、お恥ずかしいんですけど、これ」「なに」「お母さまの、お小遣い」「なにを、あんた」「いいえ、ほんとに少ないんですけど」「駄目でさ、あんた、こんなこと」(結局、受け取る)
    [彼岸花 1:05:24]「失敬だけど、これ、ほんのお小遣い」「あ、いいんです、そんなことして頂かなくて」(断固、拒否)
    [秋刀魚の味 36:55]「実はね先生、これ、こないだの連中が、これを先生に」「なんですか」「いや、記念品でもと思ったんですが」「あ、そりゃいかん。そりゃ頂けん。どうぞご無用に」(拒否するが、他に気を取られている間に置いていかれる)

    53 矛盾−評価する人の都合
    【行人 帰ってから 二十二】「兄さんはすでにお父さんを信用なさらず。僕もそのお父さんの子だという訳で、信用なさらないようだが、和歌の浦でおっしゃった事とはまるで矛盾していますね」……「何がって、あの時、あなたはおっしゃったじゃありませんか。お前は正直なお父さんの血を受けているから、信用ができる、だからこんな事を打ち明けて頼むんだって」

    [淑女は何を忘れたか 07:28, 13:40]A「ねえ、明日あたり、また大阪の節ちゃん来るわよ」 B「そう、逢いたいわねえ」 C「あたし、あの子好きさ」 B「あの子良い子よ、ちょっと清潔な感じがして」……/ A「節ちゃん、あんたお風呂へ入ったら耳の後ろよく洗っときなさい」 節子(煙草を吸いながら)「なんぞ着いてる」 A「うん」 節子「ねえ、拭いて」 A「いやよ、汚い」

    [父ありき 42:06]「帰省願書いて来たっす」「お前この前も帰ったな」「ああ、きゃあったす。んだども弟が生れたんで家さけえってみてえんす」「弟が生れれば帰っても、おっ母さんのおっぱい飲めないぞ」「そんなもの飲まね」……/「先生、今度の日曜日南寮皆して遠足に行くんですけども、先生も一緒に行かないすぎゃ」「今度の日曜はだめだよ」「だめだすべぎゃ」……「ちょっと用があるんだ」「いいんすべや先生一緒に行ってたんせ」「そうはいかんよ、親父に会いに行くんだ、勘弁してたんせ」……「先生もまだお父さんに会いてえすぎゃあ」「そりゃ会いたいさ。そりゃ幾つになっても同じことさ」

    [彼岸花 21:51, 26:26](仕事を再開するためにトイレと偽って、客を置いて部屋を出て行こうとする)A「ちょいと、トイレ行ってくる」 B「へえ、どうぞ……あ、うちも行っとこかしら」 A「君は、まあいいよ」……/(同じ人をその娘が、自分と同じように置いてきぼりにするのを非難する) A「で、君はどうするんだい」 C「うちは明日買い物して夜行で帰ります」 A「お母ちゃん置いてかい」 C「へえ」 A「ひどいね」

    [彼岸花 1:23:06]「お父さんて方はね、何でもご自分の思うようにならないと、お気に入らないのよ」「何がだ」「そうじゃありませんか、何時だってそうよ。今度の節子のことだって、おっしゃること矛盾だらけじゃないの」「矛盾」「そうよ、節子にボーイ・フレンドでもありゃ心配しないって、いつかも久子に、そうおっしゃったじゃないの。それが本当になったら今度は(結婚に)不賛成だなんて、ご自分で可笑しいとお思いにならない」

    [お早よう 30:19, 30:26, 34:12, 49:59](押し売りを撃退した母に対して)「お祖母ちゃんにかかっちゃ、かなわないわね」(と煽てておきながら、すぐ後に母が婦人会の会費を受取ったのを忘れていたことに腹をたて暴言を吐く)「やんなっちゃうよ、もうろくしちゃって。お祖母ちゃん、あんたもう本当に楢山だよ。とっとと行っとくれ」(この後の防犯ベルのセールスに対しては、会費の問題が解決したので機嫌よく)「うちはいらない、凄いのがあるもの……お祖母ちゃんよ、あれがいりゃあ大抵の事は大丈夫よ」(しかし近所とのもめごとの原因として、会費滞納の件を再び取り上げて)「大体お祖母ちゃんいけないんだよ、ボケちゃってて」

    *「淑女は何を忘れたか」、後の「彼岸花」、「お早よう」の三つは見られる人の言動により、その人の評価が変るので「31 矛盾−善悪共存」との類似もあります。「彼岸花」の後の方は妻(田中絹代)の「ご自分で」の発音が面白い。今までの娘への夫の態度に対して、その不満を凝縮しています。この後、会話は「A1矛盾と神様」に進みます。

    54 仲直りの握手
    【行人 帰ってから 二十四】「お重、お前とは好く 喧嘩 けんか ばかりしたが、もう今まで通り いが み合う機会も 滅多 めつた にあるまい。さあ仲直りだ。握手しよう」

    [早春 2:15:01](喧嘩した後の送別会で)「いよいよ行くのね、スギ。握手」

    *「早春」の方は仲直りの心境の変化を示す件が無いため展開が強引であり、見ていてこそばゆくもあるので元ネタがあったと思われます。

    55 弟が保護者のように兄の面倒を看る
    【行人 塵労】
    〔母を恋はずや 58:00〕

    *「行人」の「塵労」は、予定を変更して作品終了間際に追加されたのですが、後日談として描かれる主人公の更生していく様子が、ドストエフスキー「罪と罰」のエピローグに似ており、漱石はここから着想を得たのではないでしょうか。

    56 結婚すると女の性格が変る
    【行人 塵労 五十一】「嫁に行けば、女は夫のために よこしま になるのだ。そういう僕がすでに僕の さい をどのくらい悪くしたか分らない」

    [青春放課後 29:19]「私だって朗らかだったのよ、若いときは。でもあなたと一緒になってそうじゃ無くなった。苦労が足り過ぎちゃった」

    57 縁談工作はお見通し
    【こころ 先生と私 一】友達は、急に国元から帰れという電報を受け取った。電報には母が病気だからと断ってあったけれども友達はそれを信じなかった。友達はかねてから国元にいる親たちに すす まない結婚を いられていた。

    [彼岸花 26:03]「お母ちゃんのほんまの肚はなあ、自分が入院してうちに毎日見舞いにこさせて、ほんでその先生とうちと無理矢理仲ようさせようって魂胆どんのや。そんな事見通しどすわ」

    58 子供はいずれいなくなる
    【こころ 両親と私 七】「 小供 こども に学問をさせるのも、 しだね。せっかく修業をさせると、その小供は決して うち へ帰って来ない。これじゃ手もなく親子を隔離するために学問させるようなものだ」

    〔彼岸花 1:27:54〕「折角育てた娘を嫁にやるなんて、いやあ嫌なもんだよ」
    〔秋刀魚の味 1:41:29〕A「ねえ、奥さん。やっぱり子供は男の子ですなあ」 B「そうですねえ」 A「いやあ、女の子はつまらん」 C「そらあ、女だって男だっておんなじだよ。いずれはみんな、どっかへ行っちゃうんだ」

    59 親にとってはまだ子供
    【こころ 両親と私 七】母は私をまだ子供のように思っていた。
    【道草 九十三】「今にその子供が大きくなって、御前から離れて行く時期が来るに きま っている。御前は おれ と離れても、子供とさえ融け合って一つになっていれば、それで沢山だという気でいるらしいが、それは間違だ。今に見ろ」

    〔彼岸花 1:38:56〕「しかし、なんだねえ。子供って奴も、子供だ子供だと思っている内に、いつの間にか大人になってるもんだねえ」

    60 親の危篤を知らせる電報
    【こころ 両親と私 十】その中に動かずにいる父の病気は、ただ面白くない方へ移って行くばかりであった。私は母や 伯父 おじ と相談して、とうとう兄と いもと に電報を打った。

    〔東京物語 1:33:12〕A「ああ、もしもし。ああ、おれだ。え、電報」 B「尾道からよ、京子からなんだあけど、おかしいのよ。お母さん、危篤だっていうのよ」…… A「あ、ちょいと待ってくれ」 C「尾道からよ」 A「読んでみろ」 C「ハハキトク、キョウコ」 A「もしもし、もしもし。ああ、うちへも今来たよ電報」

    61 子供の居場所を変える
    【こころ 先生と遺書 五】叔父はもと私の部屋になっていた 一間 ひとま を占領している一番目の男の子を追い出して、私をそこへ入れました。

    [東京物語 08:38]「なんだい、僕の机、廊下に出しちゃって」「だって、お祖父さん、お祖母さんいらっしゃるんじゃないの」

    62 幼馴染みの仲は
    【こころ 先生と遺書 六】従妹とはその時分から親しかったのです……始終接触して親しくなり過ぎた 男女 なんによ の間には、恋に必要な 刺戟 しげき の起る清新な感じが失われてしまうように考えています。

    〔麦秋 1:43:39〕「あんまり近過ぎて、あの人に気が付かなかったのよ」

    *「麦秋」で幼馴染みでも婚約してしまうのは、それほど親密ではなく程々だったからでしょう。

    63 新しい事を口にするよりも
    【こころ 先生と遺書 八】私は ひや やかな頭で新しい事を口にするよりも、熱した舌で平凡な説を述べる方が生きていると信じています。

    〔宗方姉妹 50:08〕「あたしは古くならない事が新しい事だと思うのよ。本当に新しい事は何時まで経っても古くならない事だと思ってんのよ」

    *「宗方姉妹」の方の台詞は、これも大佛の原作にはなく、小津自身の作家としての考えを表しています(後に書く「◆普遍性−映画界の古典」参照)。

    64 夜学の教師
    【こころ 先生と遺書 二十一】Kは 夜学校 やがつこう の教師でもするつもりだと答えました。
    〔一人息子 21:50〕(母親が息子に会うために上京すると、彼は市役所を辞めて夜学の教師になっていた)

    65 戦地でも自分は死なない
    【硝子戸の中 二十二】或人が私に告げて、「 ひと の死ぬのは当り前のように見えますが、自分が死ぬという事だけはとても考えられません」と云った事がある。戦争に出た経験のある男に、「そんなに隊のものが続々 たお れるのを見ていながら、自分だけは死なないと思っていられますか」と聞いたら、その人は「いられますね。おおかた死ぬまでは死なないと思ってるんでしょう」と答えた。
    【明暗 五十二】「あなたのような落ちついた かた でも、少しは 周章 あわて たでしょうね」/「少しどころなら好いですが、ほとんど夢中でしたろう。自分じゃよく分らないけれども」/「でも殺されるとは思わなかったでしょう」/「さよう」/ 三好が少し考えていると、吉川はすぐ隣りから口を出した。/「まさか殺されるとも思うまいね。ことにこの人は」/「なぜです。人間がずうずうしいからですか」/「という訳でもないが、とにかく非常に命を惜しがる男だから」/ 継子が下を向いたままくすくす笑った。戦争前後に独逸を引き上げて来た人だという事だけがお延に解った。

    〔小津安二郎戦場談◆誉鐓譴蓮⊂しも怖くない。弾丸雨飛の文字通り、雨あられのこともある。一度などは、匪賊討伐に赴いて、連絡の橋を切落され、包囲攻撃を受けた。だが、さほど怖いとは、思わなかった。これは、つまり、兵隊にとっては、弾丸が飛来するのは、見慣れた現実だからである。弾丸が飛んでいる、アレに当ったら死ぬ、とは考える。だが、死んだ先は、考える余裕なんかない。敵がバタバタと仆れても、そこには、個人的な、――私的な感情はなくなっている。そして、次の戦へ進撃して行く。
    〔続 手紙ぁ傭討砲△燭襦戦死をする。着のみ着のまゝの埃と汗と垢で湯灌もせずに火葬になる。白木の箱に納つて東京に還つたら、先ず水道の蛇口の下に骨箱を置いて頭からどうどう、暫く水をかけて貰ひ度い。足先を凝視めて黙々と歩きながらさう思つた。だが腹の底に、僕には絶対に弾はあたらないと言ふ自信に近いものも確かにあつた。何故かと訊かれると困る。

    66 安っぽい涙
    【硝子戸の中 二十七】舞台の上に子供などが出て来て、 かん の高い声で、 あわ れっぽい事などを云う時には、いかな私でも知らず知らず眼に涙が にじ み出る。そうしてすぐ、ああ だま されたなと後悔する。なぜあんなに安っぽい涙を こぼ したのだろうと思う。

    [映画の味・人生の味−秋日和 楼譴弔離疋薀泙魎蕎陲埜修錣垢里呂笋気靴ぁ5磴い燭蠑个辰燭蝓△修Δ垢譴佝瓩靴させ、うれしい気持を観客に伝えることができる。しかし、これでは単に説明であって、いくら感情に訴えても、その人の性格や風格は現せないのではないか。劇的なものを全部取り去り、泣かさないで悲しみの風格を出す。劇的な起伏を描かないで、人生を感じさせる。こういう演出を全面的にやってみた。

    *漱石の方は安っぽい涙を流してしまう芝居を嫌ったわけですが、「30 悪事を嫌悪」と同じように、自身もそのような小説は書いていません。

    67 尻端折りをして拭き掃除
    【道草 八】 綺麗好 きれいず きな島田は、自分で 尻端折 しりはしお りをして、絶えず 濡雑巾 ぬれぞうきん を縁側や柱へ掛けた。
    【道草 四十八】持って生れた倫理上の不潔癖と金銭上の不潔癖の償いにでもなるように、座敷や縁側の ちり を気にした。彼は しり をからげて、 ふき 掃除をした。 跣足 はだし で庭へ出て らざる所まで掃いたり水を打ったりした。

    [小早川家の秋 45:04]A「なんや、拭き掃除か」 B「へえ」…… A「わいがやったる、貸し」 B「いいえ、よろしおす」 A「かまへん、かまへん、内輪やないかい」 C「お父ちゃん、足袋ぬがなあ、おいども巻くって」 A「ふん、そやな。お前よう気い付くわ」(尻端折りをして、拭掃除をする)

    68 子供を伴れて実家へ
    【道草 五十五】「じゃ当分子供を れて うち へ行っていましょう」細君はこういって一旦里へ帰った事もあった。……/一カ月あまりすると細君が突然遣って来た。

    〔東京暮色 2:15:11〕「道子もだんだん大きくなりますし」「そうか、じゃ帰るか」「ええ、今度こそ一生懸命、お父さんにご心配掛けないようにやってみます」「そうかい」「あたしにも、我が儘なとこがあったんです」

    69 追随に心得顔
    【道草 百一】「だけど御正月早々御前さんも随分好い つら の皮さね」「好い面の皮 こい の滝登りか」/ 先刻 さつき から そば 胡坐 あぐら をかいて新聞を見ていた比田は、この時始めて口を利いた。しかしその言葉は姉に通じなかった。健三にも解らなかった。それをさも心得顔にあははと笑う姉の方が、健三にはかえって 可笑 おか しかった。

    [秋刀魚の味 1:40:32]「いやあ、おれあ綺麗好きだよ」「綺麗好き、夜はすこぶる汚好きか」「あ、そうか。ははは……、なるほどねえ」「何がなるほどだい」

    70 外来者に顕微鏡を覗かせる
    【明暗 一】彼の そば には南側の窓下に えられた 洋卓 テーブル の上に一台の 顕微鏡 けんびきょう が載っていた。医者と懇意な彼は 先刻 さっき 診察所へ 這入 はい った時、物珍らしさに、それを のぞ かせて もら ったのである。その時八百五十倍の鏡の底に映ったものは、まるで図に 撮影 ったように あざ やかに見える着色の 葡萄状 ぶどうじょう の細菌であった。

    [戸田家の兄妹 51:46]「ねえ、お祖母さん、これ見てごらんよ」「なあに」(顕微鏡を覗かせる)「ね、見えるだろ」「うん」「綺麗だろう」「何だかごちゃごちゃしたものが」「何だか分るかい」……「お祖母さんには難しいことは分りませんよ」「難しいことないよ、僕の鼻くそだよ」

    71 子供には分らない、聞かせたくない大人の会話
    【明暗 三十一】「お母さん意があるって何」「お母さんは知らないからお父さんに伺って御覧」「じゃお父さん、何さ、意があるってのは」/叔父はにやにやしながら、 禿 げた頭の真中を大事そうに で廻した……「真事、意があるってえのはね。――つまりそのね。――まあ、好きなのさ」「ふん。じゃ好いじゃないか」「だから誰も悪いと云ってやしない」「だって みん な笑うじゃないか」

    [麦秋 38:10]「見たとことっても立派そうな方」「見たのか」「ええ写真で」「写真持ってるのか、紀子」「ええ……勇ちゃん、あっち行ってらっしゃい」
    [秋日和 28:46]A「あっち行ってろ」 B「いいじゃない」 C「いらっしゃい」……C「だいちゃんもお二階いらっしゃい。いくのよ」……C「ねえ、うちに来るなかじゃ(見合いの相手に)後藤さん一番いいんじゃない」 A「おれもそう思うんだ。一度よぶからね、お前からよく話して、写真と履歴書貰っといてくれ」
    [青春放課後 21:23]「君のおっかさんが未だ祇園で雛菊っていう可愛い舞妓さんの時分でね。俺たちみんな、ノリの岡惚れでねえ」「何どすの、ノリって」「ノリはノリだよ。まあ、君はほんなこたあ分らなくったっていいんだよ」

    72 目的のバーはここいらにない
    【明暗 三十四】その中程にある 酒場 バー めいた店の 硝子戸 ガラスど が、暖かそうに内側から照らされているのを見つけた時、小林はすぐ立ちどまった。「ここが好い。ここへ入ろう」「僕は厭だよ」「君の気に入りそうな上等の うち はここいらにないんだから、ここで我慢しようじゃないか」

    [彼岸花 58:54]「お馴染みらしいじゃないか」「はあ」「じゃ、早くそう言やいいのに。君も一緒んなって、随分探したじゃないか」「はあ、すみません。あの、ここじゃないと思ったんです」「じゃ、何処。そんなに君、おんなじ名前のバーこの辺に幾つもないよ」

    73 女房の掌に
    【明暗 四十七】「世間には津田よりも何層倍か むずかしい男を、すぐ手の内に丸め込む若い女さえあるのに、二十三にもなって、自分の思うように 良人 おっと あや なして行けないのは、 畢竟 ひっきょう 知恵 ちえ がないからだ」

    [晩春 1:15:00]「とにかく(嫁に)行ってみんのよ。で、にっこり笑ってやんのよ。すると旦那様きっと惚れてくるから、そしたらちょこっとお尻の下に敷いてやんのよ」「まさか」「そうよ、そういうもんなのよ。冗談だと思ってんの、あんた」

    74 窘めに動じない
    【明暗 四十九】 綺麗 きれい 友染模様 ゆうぜんもよう の背中が隠れるほど、帯を高く 背負 しょ った令嬢としては、言葉が少しもよそゆきでないので、姉はおかしさを こら えるような口元に、年上らしい威厳を示して、妹を たし なめた。「百合子さん」/妹は少しも こた えなかった。例の通りちょっと小鼻を ふく らませて、それがどうしたんだといった風の表情をしながら、わざと継子を見た。

    〔戸田家の兄妹 1:05:20〕(接客の後片付けで、三女が余ったお菓子をつまみ食いすると母が)「まあ、お行儀の悪い人」「美味しいのよ、これ」

    75 反抗期
    【明暗 七十四】一家のものは明るい室に 晴々 はればれ した顔を そろ えた。 先刻 さっき 何かに ねて縁の下へ 這入 はい ったなり容易に出て来なかったという はじめ さえ、 機嫌 きげん よく叔父と話をしていた。

    [東京の 合唱 コーラス  30:08](父親がボーナス日に失業してしまったため、子供に二輪車を買って帰る約束を果たせず、代りに与えた安いスケートを子が拒否して反抗する)
    [生れてはみたけれど 1:10:14](父親が上司に卑屈になるのを目撃した子供が、それを受け入れられず反抗する)
    [麦秋 1:09:10](父親がミニチュア電車のレールを買って帰ると思い込んでいた子供が、それがパンであったのを知って反抗する)
    [東京物語 26:02](祖父母の東京見物お伴の予定が、医者である父親の往診で中止になってしまったので子供が拗ねる)
    [お早よう 38:28](家にテレビが無くて大相撲が見られないと拗ねた子供が、親に叱られ反抗する)

    *漱石は自分の子供をネタにしたようですが(㉛第十三巻 断片 p.774)、子供のいなかった小津の方は自身の体験が元になっているのではないでしょうか。

    76 道ならぬ恋の手ほどき
    【明暗 百三十二】(後に津田と清子の密会のお膳立てをする吉川夫人について)時間に制限のない彼女は、頼まれるまでもなく、機会さえあれば、 ひと の内輪に首を突ッ込んで、なにかと 眼下 めした 、ことに自分の気に入った眼下の世話を焼きたがる代りに、 いた るところでまた道楽本位の本性を あら わして平気であった。

    [東京暮色 1:32:03]「さる短期大学に憎い程、純情無垢な男女の学生がありましてねえ、……その青年のアパートに一人の悪漢がありましてねえ、その青年を煽てて、ともあれこの二人をですねえ、実にこの何と申しましょうか、手もなく、くっ着けてしまったんですねえ」

    77 飲食店できまりの悪い思い
    【明暗 百五十六】「うん。ここには探偵はいないようだね」「その代り美くしい人がいるだろう」小林は急に大きな声を出した。「ありゃみんな芸者なんか君」ちょっときまりの悪い思いをさせられた津田は叱るように云った……

    [秋日和 43:34]「お母さん、ミシンの針買うんでしょう」「それからタの字の付くもの」「なあに、」(思わず大きな声で)「ああタラコ!」(ちょっときまりの悪い思いをさせられた母は、軽く睨んで周りを気にする)

    *「秋日和」にあるこの場面や、「15 あなたに用はありません」「26 第三者の介入で誤解をまねく」などは、かつてホーム・ドラマにも出て来たようなネタですが、元をたどれば小津を経て漱石に至るということでしょうか。

    78 皮肉な呼びかけ
    【明暗 百六十一】「何がそれみろだ。余裕は僕に返せと云わないという意味が君にはよく解らないと見えるね。気の毒なる 貴公子 きこうし よだ」

    [麦秋 42:40]「帰れ帰れ、幸福なる種族」

    79 明と暗
    【明暗 百六十五】今まで前の方ばかり眺めて、ここに世の中があるのだときめてかかった彼は、急に うしろ をふり返らせられた。そうして自分と反対な存在を注視すべく立ちどまった。するとああああこれも人間だという心持が、 今日 こんにち までまだ会った事もない幽霊のようなものを見つめているうちに起った。 きわ めて縁の遠いものはかえって縁の近いものだったという事実が彼の眼前に現われた。

    〔泥中の蓮を描きたい 妖ッ罎力……この泥も現実だ。そして蓮もやはり現実なんです。そして泥は汚いけれど蓮は美しい。だけどこの蓮もやはり根は泥中に在る……私はこの場合、泥土と蓮の根を描いて蓮を表わす方法もあると思います。しかし逆にいって蓮を描いて泥土と根をしらせる方法もあると思うんです。/戦後の世相は、そりゃ不浄だ、ゴタゴタしている、汚い。こんなものは私は嫌いです。だけれどそれも現実だ。それと共につつましく、美しく、そして潔らかに咲いている生命もあるんです。これだって現実だ。この両方ともを眺めて行かねば作家とはいえないでしょう。

    80 置いてきぼり
    【明暗 百八十】「いらっしゃる時は旦那さまもごいっしょでしたが、すぐお帰りになりました」「 いてきぼりか、そりゃひどいな。それっきり来ないのかい」「何でも近いうちにまたいらっしゃるとかいう事でしたが、どうなりましたか」

    [彼岸花 26:19]「じゃ、お母ちゃん可哀そうじゃないか、そんなとこ(人間ドックのために病院へ)入れられちゃって」「そやけど、身体だけは、ようなりますやろ」「そりゃまあ、そうだけど。で、君はどうするんだい」「うちは明日買い物して夜行で帰ります」「お母ちゃん置いてかい」「へえ」「ひどいね」

    81 林檎の皮むき
    【明暗 百八十七】「それで」と云いかけた津田は、 俯向加減 うつむきかげん になって 鄭寧 ていねい 林檎 りんご の皮を いている清子の手先を眺めた。 したた るように色づいた皮が、ナイフの刃を れながら、ぐるぐると けて落ちる後に、水気の多そうな 薄蒼 うすあお い肉がしだいに現われて来る変化は彼に一年以上 った昔を おも い起させた。

    [秋日和 1:12:46](かつての想い人の自宅に行った後に)「あんなのを言うんだね、雨に悩める海棠と。それでね、俺に林檎むいてくれたりしてね、あの白い手で」

     

    【参考文献】

     

     (本文ここまで)




     

     

     

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